しばし、お亡くなりになりました、この私。そんなシャレにならん話をひとつ。
どうやら、私は死んだらしい。
「出棺です」の声。耳に指で栓をする。
冥界に行くと、まず、エントランスのようなものがあり、そちら側の世界の人に導かれる。まぁ、泣くよね。「生きたい!」「まだ死にたくない!!」「お祭りわっしょい!!!」・・・。バーのようなこじんまりした場所で、逝ってしまった人々が談笑している。(誰もがはじめはそうなのよね)的なあたたかい目に囲まれて、少し恥ずかしくなり、涙は止まった。思いきって鏡をのぞく。火ぶくれで、醜く変化している。あきらめた、おらは死んじまっただ・・・。
よく見ると皆同様の印が体に入っている。無論、私にもあるのだろう。「死者」の刻印が。
見覚えのある中南海たばこを吸う者を発見、一本分けてもらおうと近寄ると、何やらホール係りの人に「コーラ味」などのフレーバーを付けてもらっている。新参者の私をからかい、私は爪にライターで火をともされおびえるが、きれいに発光するだけで、熱くはない。まったく、システムを飲み込むのにてんやわんやだ。
緑のビロードの切りっぱなしになったエッジの効いた2ピーススカートを着こなす、おじさん。「生きていたらこんな格好できませんよ」とほほえむ。
そうだ、ここでは自らの死を憂いてる者は誰一人いない。そうだ、他界した、あの人にだって会えるかもしれないのだ。アラーキーに撮ってもらったあの写真を遺影に使ってほしいなぁ、なんて、冥界ライフを受け入れる心の態勢が整いつつあったその時、どこからともなく「帰れ」の声が。
「へ?」も一度生き返るのかい?ここはここで楽しそうだが、まぁ生きている内にやり残した事はたくさんあるし、おいとまさせてもらおうっと。そこで、何やら、エントランスの番人が「Y」と呼ばれる邪悪なものが進入してくる気配を察知、皆はあわてて、おのおの持っているリモコン型の探知機の電源をオフにする(下界との通信機だろうか?)。なんだなんだ?私は奥の方へ身をひそめた。
「Y」は去り、場の緊張もほぐれたところで、再び帰宅準備だ。番人に話を聞く。「あなたのご両親はたまにここへ相談しに来るのよ。」って、つまり我が子を「あの世」に葬る相談かよ!とゾッ。
またあるおじさんが、息子に伝えきれなかった思いを手紙にしたので持って言ってくれないか、とのこと。目をやると、大きなスポーツバックいっぱいだ。この親子間に一体何があったのだろうと思いつつ、「重いです・・・。」とお断りする。
積極的に番人から話を導きだす。「ここの薬をあなたは飲んでいるし、前にも一度来た事あるわ。」
精神安定剤のことか?実は以前にも同じようなところへ来たことがある。妙な夢を見たなと、片付けていた、あれか、と合点した。「もう一晩泊まっていったら?」いえ、結構です。何か「冥土のみやげ」を持っていっていいですか?と言うと四角い金のプレートと、紙片を渡された。それにはこう書かれていた。
「この世に現世があると思ってはならない」
冥界の住人達との別れだ。ビニール製の房とうちわのようなもので「シッシッ」とやる独自の作法での見送り方。いよいよ扉が開かれる。
「おい、帰るぞ」聞き覚えのある声。
「店長!」昔歌舞伎町でアルバイトしていた頃、お世話になった人だ。意外な人選。
店長と街を歩く。お腹がすいた。バーガーキングの看板が目に入る。鉄網に囲まれ、子供たちが遊びながら飲食している。「大人2名大丈夫ですか?」「ガイコクゴワカリマセン」
「俺も去年2度{寝て}疲れてるんだよ。」
あちら側へ行く(逝く)ことをそう表現した。
あの世とこの世は地続きなのかも。
にぎりしめていた冥土のみやげは、よみがえったら消えていた。これでは説得力ゼロである。
あなたも知らないうちに、死んでいるかも知れません・・・。

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